大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和59年(特わ)3849号 判決 1985年3月07日

(一)本店所在地

東京都八王子市小門町三八番地

株式会社 マルエ商事

(右代表者代表取締役 柏木英一)

(二)本籍並びに住居

東京都八王子市小門町三八番地

会社役員

柏木英一

昭和九年一二月一六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人株式会社マルエ商事を罰金一四〇〇万円に処する。

二1  被告人柏木英一を懲役一〇月に処する。

2  この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社マルエ商事(以下被告会社という。)は、東京都八王子市小門町三八番地に本店を置き、商品取引業を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人柏木英一は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人柏木は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、野村晴夫ほか四名の仮名口座を通じて行なった商品先物取引による商品売買差金を公表売上から除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五五年一一月一日から同五六年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億六五九〇万七三三二円(別紙修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五六年一二月二八日、東京都八王子市子安町四丁目四番九号所在の所轄八王子税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億三四五六万六二三三円でこれに対する法人税額が五五四一万三六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第一九一号の一)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億一〇五七万六九〇〇円と右申告税額との差額五五一六万三三〇〇円(別紙ほ脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人柏木英一の(イ)当公判廷における供述

(ロ)検察官に対する供述調書五通

一  長田吉太郎、長田照子、牧和生、長田博、釘本晴夫、保田義雄、串田光憲(二通)、串田栄作、柏田トミ(二通)の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏大鹿強作成の(イ)売上高調査書

(ロ)口座貸付益調査書

(ハ)配当損調査書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和六〇年押第一九一号の一)

(法令の適用)

法律に照らすと被告会社の判示所為は、法人税法一五九条一項、一六四条一項に該当するところ、情状により同一五九条二項を適用し、所定罰金額の範囲内で被告会社を罰金一四〇〇万円に処する。

被告人柏木の判示所為は同法一五九条一項に該当するので所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、後記情状に鑑み刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、商品取引を業とする被告会社の代表取締役である被告人が、判示のとおり昭和五六年一〇月期において、商品売買差金等の除外により五五〇〇万円余の法人税を免れたという事案であり、一事業年度の脱税額としてはかなり高額であること、ほ脱率も五〇パーセントに近いことから考えると決して軽微な脱税事犯とはいえない。

被告人は、かねて商品取引を業とする山梨商事株式会社に勤務し、取締役営業部長の地位にあったが、個人でも商品取引を行っており、昭和五二年一二月これまで個人で行って来た取引を会社営業とすることにより節税を図る等の目的で資本金五〇〇万円の被告会社を設立したものである。

本件犯行の動機は、商品取引が投機色の強い取引であることから、被告会社の損失時に備えて資金を蓄積し、もって経営基盤を安定させようということにあったものと認められるが、会社の不況時に備えて資金の蓄積を望むのは、事業を営む者に共通した願望であって、商品取引の特殊性を考えてもとくに本件に関し動機において宥恕又は斟酌すべきであるとは認められない。犯行の態様をみると、本件犯行の大部分を占める商品売買差金の除外は、被告人が山梨商事などの商品取引業者に有する仮名ないし借名口座による取引による商品売買差金のうち三分の一強を占める八口座分をそっくり公表から除外し、業者からは申告分の委託者別先物取引勘定帳のみを取り寄せ、簿外分売買報告書等を被棄していたもので、大胆な犯行というべきであるが、反面、架空の証憑書類の作成や業者との通謀などの秘匿工作を伴っていない点で特に悪質とは言い難い面もある。

他方、被告人は、本件脱税に関し昭和五七年二月東京国税局の査察を受けて以来、すべて犯行を自白して改悛し、脱税にかかる国税、地方税及び付帯税のすべてを同年八月までに完納しているほか、日本赤十字社に一〇〇万円を寄付して反省の気持を表わしていること、被告会社は、いったん青色申告を取り消されたが、その後再び青色申告法人となり、現在は経理体制にも改善の跡がみられることなど被告人のため斟酌すべき事情も認められる。

以上を総合勘案して被告人に対してはとくに懲役刑の執行を猶予することとした。

(求刑被告会社罰金一五〇〇万円、被告人懲役一〇月)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 小泉祐康)

別紙

修正損益計算書

自 昭和55年11月1日

至 昭和56年10月31日

<省略>

別紙

ほ脱税額計算書

自 昭和55年11月1日

至 昭和56年10月31日

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例